NPO法人まちづくりネットワークWILL
理事長
平澤 文江 様

 私たちが住む水窪町(みさくぼちょう)は、静岡県浜松市の最北端、長野県と愛知県の県境に位置し、面積の97%が山林です。1900人足らずの人口の6割以上が高齢者で、中学生までの子供は70人ほどしかいません。子供がいる家庭は、まるで宝くじに当たったかのようにうらやましがられていますから、高校生の息子がいる3世代同居の私たちは、水窪的幸福度ランキングでは、自動的に上位にランクインしています。
 近くのコンビニまで車で1時間、人間より野生動物の方が多い水窪町ですが、現在高齢者のスマホデビューがトレンドとなっています。ネット上では情報弱者とあざけられていますが、高齢者だってテレビくらい見ます。特にコロナ禍で加速しているネット活用のムーブメントに多くの高齢者が焦りや不安を感じ、少しでも若いうちにスマホにした方がいいのでは、と考える方が増加しています。
 そんな折も折、昨年12月に突如浜松市から「同報無線の仕組みが新しくなるので、各家庭の受信機を返却してください。今後、市の情報は、屋外のスピーカーとメールかラインによって配信されます」という通知が回覧板によって回されました。そもそもスピーカーによる放送は、山にこだましてよく聞き取れないために戸別に受信機が配布されていた地域ですから、屋外のスピーカーはあまりあてになりません。もちろん、携帯がない高齢者のみ世帯、携帯回線が入らない地区には、新たに受信機が配布されるというセーフティーネットは用意されています。しかし、携帯やスマホを持っている家族がいる世帯には、新たな受信機は配布されません。たとえ電話機能しか使えなくても、です。
 「行政すらスマホありきの制度設計をするのか。いよいよスマホが使えないと生きていけない時代の到来だ」と焦った高齢者の皆さんが続々と相談に来ています。
 高度経済成長の時代、箒は掃除機に、たらいは洗濯機に姿を変えました。明治生まれの祖母は、電子レンジが我が家に到着したとき、ついに家事を放棄し、すべてを母に譲り渡しました。いつの時代も、新しい技術に高齢者が適応するのは大変です。
 令和の今、タップするたびにアイコンが消えていくおばあさん、見もしないアニメ見放題のオプション契約をして来るおじいさんたちは、代わりに操作してくれる家族がいない家で途方に暮れています。
 デジタルファーストを宣言し、デジタルスマートシティを目指し始めた浜松市。最先端の仕組みを取り入れたり、技術の先端をさらに引き上げることもデジタルファーストでしょう。でも、途方に暮れる大多数の高齢者がスマホを上手に活用できるようになることも立派なデジタルファーストではないでしょうか。もちろん「上手に活用」には、操作やアプリの知識だけでなく、安全に使う知恵が不可欠だと考えています。特に行政には、その部分こそ支援していただきたいと願っているのですが、皆さんはいかがお考えでしょうか?

執筆者プロフィール

平澤 文江 様

NPO法人まちづくりネットワークWILL理事長
2001年 NZより帰国、とりあえず帰郷し夫の実家に住み着く
2004年 水窪町女性の会(旧婦人会)会長就任
2011年 法人化に伴い団体名をまちづくりネットワークWILLに改称、理事長に就任
みんなが暮らしやすい地域を次世代につなぐため活動している。
活動分野にはこだわらず「今すべきことは今やる」ことにこだわるため、いつでも専門外の活動に取り組むことになる。
主な活動は、高齢者・子ども支援や教育支援、スマホ推進活動など。

2021/4/14

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